【06】ナデミタコエクスプレス『アメリカ・カンザスシティ』

2004年1月、当時の中部地方の主要空港であった小牧空港から、ナデミタコはアメリカ・カンザスシティへ留学しました。

バレーボールチームがあり、留学生も受け入れており、なおかつ4年制のリベラルアーツカレッジを、カンザスシティに見つけることができました。

リベラルアーツ

リベラルアーツとは、アメリカの大学の根底にあるような教育理念で、生徒の教養と、考える力を育むことを、技術的なスキルの取得よりも重視します。

リベラルアーツカレッジでは、生徒はドミトリーと呼ばれる寮で共同生活をします。子供と大人の境界線を行ったり来たりしながら、生徒は自己を確立し、社会生活とはどういうものか実地で学んでいきます。また、家族以外の他人と空間を共有する経験を得るために、ルームメイトを持ちます。

アメリカの大学生活は、まったく忙しくありません。学期は秋学期(9月~12月)と、春学期(1月~5月)の二学期制で、5月から9月までは、長い夏休みです。学期中はそれなりに授業の予習や課題やグループワークや小論文書きはありますが、それでも十分に自由時間はあります。

リベラルアーツカレッジの学生は、世界一、余暇を与えられています。

自己を鑑みて、友達と至高の時間を過ごし、いっぱい失敗して、夢を持ち、大人になる準備をするのです。

リベラルアーツが育む人間

リベラルアーツは、自ら思考し、行動することができる人間を社会に提供します。

いま世の中に存在するすべての会社や組織、商品やあらゆるサービスは、誰が仕組みを作ったんですかというと、自らの仮説を真とするために、何があっても、何を言われても行動しつづけた人間です。

既存の価値観や社会のありのままを見て、そこから社会を次のステージへ導くための仕組みを考えだす人間がいるから、社会はより良く、より多様性を持ち、常に新しいのです。

あなたはどう思うのか、あなたの考え方はなにかを、クラスでは問われます。稚拙だろうがなんだろうが、まずは何か発言することが求められます。そしてエッセイと呼ばれる小論文をひたすら書きます。

アメリカの大学は、自分の頭で考えて、自ら行動し、新しい価値や雇用の場を、社会に還元する、もっとも資本主義に必要な人間を育む場所です。

今日でも、アメリカは、まったく新しい価値や雇用の場を、地球規模の社会に還元しています。

グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンに限らず、いつの世にも、アメリカから世界を魅了するアイデアが生まれるのは、目に見えぬ、真の中心点が、リベラルアーツという教育理念にあるからです。

そもそも、いまここにあるインターネットは、アメリカの大学と軍が、1970年代に創り出したものです。どんなときでも機能し続けるために、あえて中枢を持たないクモの巣のようなネットワークの実現を目指してはじまったプロジェクトは、いまや地球上のすべての一個人が、報道機関となり表現者となる可能性を持ちはじめました。

リベラルアーツとは、自分で考えて行動し、視野が広く、善であり、自分にやさしく、周囲にもやさしい人間を育てるための教育です。

大正時代に日本に輸入されたリベラルアーツは、全人教育と訳されました。

いざアメリカへ

小牧空港まで、見送りに来てくれたお父さんは、「よく誰も知り合いのいない国に、独りで行けるな」と思ったそうです。

ナデミタコは、なにも怖くありませんでした。それは、青年期の勢いもあったでしょうが、拠り所にできる根拠が二つありました。

一つは、アメリカは物理的にそんなに遠くないと思っていたことです。というか、飛行機で12時間は、近いと思っていました。なぜなら、ナデミタコは、小学生の時に、ある機会に恵まれて、ブラジルに行ったことがあるからです。初めて乗った飛行機が、24時間を超えるフライトだったので、12時間などたいしたことはないという感覚だったのです。

もう一つは、ナデミタコのお母さんが、帰国子女だったことです。中学生だったお母さんが、アメリカでなんとかなったんだから、大学生のナデミタコなら余裕だと楽観的に考えていました。

言ってしまえば、ナデミタコにとってアメリカは、行く前から居心地がよい場所でした。

英語はほとんどできませんし、知り合いもいません。カンザスシティがどこにあるのかもよく分かっていませんでした。まあでも、行けば何とかなると思っていたし、実際何とかなりました。