【03】ナデミタコエクスプレス『14歳』

14歳を境に、ナデミタコの人生は、一つの転換期を迎えます。

両親が離婚し、ナデミタコの親権は父親にありましたが、母親が心配だったので、母親と暮らす選択をしました。

子供にとって、安全で心地が良く、愛に満ちていると思っていた環境の崩壊は、天災です。

天災は、大ダメージを与えます。ナデミタコは、生活習慣が乱れました。朝起きれないことからの遅刻の常習化、欠席日数の増加と、今まで何も考えなくても当たり前にできていた、毎日学校に行くという習慣が崩れます。

それでもなんとか高校に進学し、母親と暮らしながら、実家の父親や弟や祖父母にも出来る限り会いにいきました。

強がって平気な顔をしていましたが、まったく大丈夫ではなかったのだと、今なら分かります。災害からの復興には、時間がかかるのです。周囲の友達や、バレーボール部の顧問の先生など、たくさんの人たちが、助けてくれました。そのおかげで、本当にいろいろなことがありましたが、19歳で、一年留年して高校を卒業することが出来ました。

離婚で、ナデミタコの人生の岐路は、確かに変わりました。現状が復元不可能なほどダメージはあったでしょうが、困ったことは、ひとつもなかったのです。食うに困ったこともありませんし、学校に行けて、バレーボールもできて、左利きのセッターとして、全日本Bチームの強化合宿に呼んでもらえる機会にも恵まれました。

いまでも、ナデミタコは、非常に不規則な日常生活を送っています。でも、もはやそれはナデミタコの貴重な個性であり、社会生活に適応した人生から、ナデミタコを遠ざけてくれたありがたい習慣です。ありのままの自分を受け入れたからこそ、成立する人生を、見つけることができました。

予定を一切持たないからこそ、すべての時間を財産として持つ人生を見つけ出し、ナデミタコを肯定してくれる素晴らしい伴侶とも出会えたのです。

自分がされて嫌だったこと、つらかったことは、次世代にしない。自分がされて嬉しかったこと、楽しかったことは、次世代につなぐ。これは、人間だけがもつ、美しくてユニークな特徴です。ナデミタコが、どんなときでも、妻を最優先に考えることができるのは、離婚という試練があったおかげです。しかし、ナデミタコの子供は、ナデミタコが、妻を本当に大切にする姿から、同じことを学び取れるはずです。

ナデミタコを、離婚という災害から本当に救ってくれたのは、24歳のとき、アメリカの大学で受けたカウンセリングでした。

「思春期の子供は、両親の離婚がきっかけで、犯罪を犯すこともあるし、自分を傷つけることもある。あなたは、外にも内にも暴力を振るわず、母親に寄り添い続けた。それは、すごいことだよ。ちょっとくらい不登校になるなんてのは、なんでもない。あなたは、周囲の助けのおかげで、いまの自分があると思っているが、それは、あなたが、逆境に負けずに、精一杯がんばっていたから、みんなが助けてくれたんだよ」

離婚は、ない方がいいのは間違いありません。しかし、離婚すべきなのに、離婚しない夫婦は、周囲の人間に壊滅的なダメージを与え続けます。特に子供は、大好きな両親のために、一生懸命に、関係や環境を浄化しようとします。そして、子供の心と体を蝕んでいきます。

離婚は、必要な大手術です。大きな病巣を、体を切り刻んで、取り出すわけですから、大怪我と同じですし、瀕死の重傷です。

しかし、生きるか死ぬかのあと、父親、母親、そして周囲の家族の心と体は、徐々にゆっくり回復するのです。

ナデミタコの両親は、離婚するしかなくなったら、必死で離婚してくれました。破綻した結婚生活の強制終了という、誰もができるわけではない行動をとってくれた父親と母親には、感謝しています。