ナデノキッチンで火を司っている道具は、パロマさんの一口コンロPA-E18Sです。
数年前に、近所のホームセンターで6,000円くらいで購入しました。
世の奥様方憧れのコンロが3口もあるビルドインガスコンロや、近未来的なIHクッキングヒーターに比べると、ほぼタダくらいの値段です。
50年での維持費で考えますと、耐用年数の10年で1回、計5回買い替えたとして、2024年時点での定価が9,200円ですので、生涯でコンロにかかるお金は4万6,000円です。しかもこの一口コンロは、二口以上のコンロだとたいてい必要な電池など、着火補助電源すら必要ありません。構造的にはライターと同じで、つまみをひねった時のエネルギーで着火するというとても良くできた商品です。
なぜ、一口コンロ以外のコンロはダメなのか。それは、魚グリルがついているから、二口以上のコンロは、温度センサーが付いているから、ガス火が現代の家庭の火元として一番美味しい料理が提供できるからです。
魚グリルを買ってはいけない
使わないからです。使わないものは買ってはいけません。
また、使っている人がいるとして、使った後の掃除は、どう考えても地獄です。
魚グリルの手入れは、一番やりたくない掃除で、まったく楽しくありません。しゃがんでのぞき込まなければ掃除できず、身体はねじれ、水で流すこともできず、魚臭はとれず、網は油でギトギト、魚グリルから排出される煙のダクトや出口にいたっては、どう掃除すればよいのか見当もつきません。
それでも、メーカーとしては、1円でも大く儲けたいですから、コンロは、2口、3口と増え、さらに下の部分に魚グリルを取り付けるのです。
何十万もするビルドインガスコンロは、費用に見合うだけの時間とお金の節約、使いやすさ、手入れのしやすさ、楽しさ、幸せを提供しているのでしょうか。
日本人全員を守るSiセンサー
2口以上のコンロには、必ずSiセンサーと呼ばれる火加減を弱めたり、火を消したりするセンサーが付いています。
あらかじめ断っておきますが、なっこはSiセンサーに賛同いたします。油はある一定の高温になると必ず発火しますから、火事からあなたと周囲の家を守るSiセンサーは、みんなの安全を守るためには、絶対必要です。うっかりして消し忘れることは、誰にでも起こりえます。確率の問題なので、日本中でてんぷら油の消し忘れ、失念は毎日起こっております。それでも火事になっていないのは、Siセンサーのおかげです。
Siセンサーは、電源がないと稼働しませんので、電池を必要とします。一口コンロのように、ライターと同じ形式で着火するようにしてしまっては、電池を交換しない人は一定数いるので、電池の電源で火花を出して着火するよう、わざわざ作ってあるのです。電池がないと、火がつかないのは、絶対Siセンサーが稼働している状況で、調理をさせることを可能にするためです。
日本中の家が燃えない対価として、わたしたちは何を支払っているのでしょうか。
火加減を支払っています。火加減というのは、料理の基本であり奥義です。それがおかしくては、料理は美味しくなりようがありません。
炒め物をするときのために、高温モードなるものがついているのですが、それでもある一定以上の高温になると火は弱くなります。そして、中華鍋を振ろうものなら、Siセンサーは、地震で鍋が転げ落ちたという最悪の事態を想定し、みんなのための最善の選択をし、即座に火を消します。
みんなの命や家がなくなる揚げ物での火災をなくすために、煮る、蒸す、炒めるの火加減がおかしくなり、各家庭の料理が多少まずくなったところで、それを補って余りある全体の利益があるとされています。
なぜか、一口コンロにだけは、おそらくコストの関係でしょうが、Siセンサーは付いていません。その代わり、このコンロで揚げ物をするなと書いてあります。これで揚げ物をして火事になろうものなら、過失はすべて使用者にあるということです。
つまり、ナデノキッチンには、揚げ物は一切ありません。
揚げ物はないかわりに、火加減が絶妙な煮物、蒸し物、炒め物があります。
なぜ、あなたの家庭料理はおいしくないのか、料理で最も大切な要素である火加減がおかしいからです。食材にいくらこだわっても、仕込みに手間をかけても、火がきちんと仕事をしなくては、まさに画竜点睛を欠いています。
ガスvsIHクッキングヒーター
なっこはガスを、人生の火元として選択します。なぜなら、ガス火の方が圧倒的に美味しいからです。鉄瓶で白湯を沸かし、土鍋で玄米を炊き、中華鍋で野菜を炒め、炒り豆をいい塩梅に炒るためには、日本人の縄文時代からの火元である直火が最適です。つまみを少しひねれば、完璧に調律された青色の炎が出現するのですから、文明とはすごいです。
IHクッキングヒーターの利点に、手入れのしやすさがあります。フラットな天板をちょっと拭けば綺麗になるのは魅力的です。しかし、料理のおいしさを妥協してまで得るべきなのでしょうか。ナデノキッチンの火元の一口コンロは、手入れはIHクッキングヒーターよりもしやすいです。一口しかないですから、拭く面積はどの火元よりも最小です。手入れもしやすくて、しかも料理は一番美味しいです。
また、IHクッキングヒーターの利点に、火を使わないから安全であるという面があります。これはその通りで、特殊な事情や火を使えない制約がある場合は、IH一択であろうかと思います。しかし、やむにやまれぬ状況を別にしたら、ガスにするだけで料理は美味しくなるのですから、ガスは持っておいた方がいいです。
ライフラインは、ガス・電気と両方持っておく方が賢いです。電気とガスでは、得意なことが違いますから、両方あって、わたしたちの文明的な生活は成り立ちます。
湯を沸かしたり、料理を炒めたり、冬に家を温めたり等、一番エネルギーが必要な仕事は、家まで持ってきたガスにやってもらうほうがいいです。
効率は、燃料と使う場所が近ければ近いほどはよくなります。
家でガスに直接火をつけて熱エネルギーを取り出すのと、はるばる遠方の発電所で燃料を燃やし、タービンを回してエネルギーを作り、とんでもない距離を電線で運び、産廃を大量に生む蓄電池に貯め、貯めたエネルギーでもう一度タービンを回し、火をつけるのと、どちらがエコでSDGsなのでしょうか。
特にプロパンガスは、一見すると都市ガスよりも割高なので、あまり良い印象を持たれていませんが、火力は都市ガスよりも上ですし、なにより自宅ですべて完結するスタンドアローンなインフラですので、災害には最強です。電気が止まっても、プロパンガスには関係ありませんから、家で料理はできます。
思い込みを捨てよう
貯蔵の仕事をする冷蔵庫と同じく、火の仕事をする道具の選択も特異点です。間違えば一生楽しくないキッチンとおいしくない料理を引き寄せます。
本当に使っていて楽しく、手入れがしやすく、しかも値がはらないものは、巧妙に隠されています。目の前にあるのに、それに目がいかないようになっているのです。
目利きでないと、本当のキッチン道具は見分けられません。それは、物事の本質を見て、要素を理解し、結果を予想し、仮定を真とするため行動し、間違っていたら損切りをし、試行錯誤の連続の日々に楽しみを見いだすことです。